虚構の男がゴミ捨て場に不時着する。

極力毎日掌編。そうさユアグローもどき。或いは『絵のない絵本』の月。

三分間

 その店の場所はもう使われていない地下鉄の駅を確かに示している。

女はその入口から階段を下り(コツコツとヒールの音を響かせながら)、誰もいない改札を通り抜けて(それはとても優雅な足取りで)、薄暗い駅のホームに辿り着く。女は構内に一つだけ灯った古びた蛍光灯の前で姿勢よく立ち(それはバチバチと点滅し、女のスラリと伸びた生脚を何度も照らし)、営業時間が来るのを待つ。

音がする。それは徐々に大きくなり(女の鼓膜と震えさせ)、やがて地下鉄の車両として姿を見せ(起こる風が女の身体と女のピアスを少し揺らして)、ホームに停車する。女の目の前で車両のドアが開く時間は営業開始のそれと完全に一致する。

車両が動き出し(その車内は眩しいくらいに明るく、女の白い肌を透かして)、ちょうど吊り革と吊り革の間に掛けられた無数の洋服が同時に揺れる。女はその中の一着を手に取り自分の身体にあてがって(少しずつ加速し揺れが大きくなる車内にあって整然と立ちながら)、真っ黒な窓に反射して見える自分の姿をじっと眺める。

女は何着か同じようにして品定めをした後、その中から一着を選んでその場で着替え(ブレーキが掛かり減速する車内にあってあくまで整然とバランスをとりつつ)、脱いだものを代わりに吊り革と吊り革の間に掛けて(それはとても鮮やかな手つきで)、改めて窓を見て自分の姿を確認する。

地下鉄は次の駅で停車する。女が車両から降りてドアが閉まるその時間はやはり営業終了のそれと完全に一致する。その営業時間はほんの三分間である。

-No.41-