虚構の男がゴミ捨て場に不時着する。

極力毎日掌編。そうさユアグローもどき。或いは『絵のない絵本』の月。

 鏡から血が出る。私が手を洗いながらぼんやりと鏡を見つめているときのことだ。

ポケットからハンカチを取り出して、慌ててその血を拭う。出血したところに1cmほどの切れ目があるのがわかる。けれど拭ったそばからすぐに血が溢れ、傷口は見えなくなる。

 何度も拭うが、一向に血は止まらない。カバンの中に絆創膏があったことを思い出し、それをとり出して鏡の傷口に貼る。

そうして私はお手洗いを後にしようとするが、手に付いた血を洗い落としているその数秒の間に、絆創膏は赤黒く染まり、溢れた血が鏡面をだらりと伝うのが目に入る。血は少しも止まっていないどころか、徐々に出血の勢いは増していく。やがてどばどばと滝のように血が噴き出す。

傷は鏡の上の方にあるものだから、あっという間に全面が血に染まる。私はトイレの個室に走り、トイレットペーパーをかっさらって、それで無造作に鏡の血を拭く。

 拭けど拭けど血は止まらず、私はどうしていいかわからずに混乱しながら、ただトイレットペーパーで血を拭くだけだった。

トイレットペーパーの一ロール分の紙がまるまる血で赤く染まったときに、『そう言えば私は私の顔を見ていない』とふと思う。

そこでやっと血の向こうの私と目が合う。

-No.13-