虚構の男がゴミ捨て場に不時着する。

極力毎日掌編。そうさユアグローもどき。或いは『絵のない絵本』の月。

目隠し

『待ち合わせは目隠しで』と女がメールで指示を寄越したので、男は素直に従う。駅の改札口のそばの柱に寄りかかり、黒い布を帯状にして顔に巻く。自身の視界を完全に塞ぐ。

 男は音を聴く。空調が起こす風の音。人の足音、話す声。その雑音の中に女の音を探す。ハイヒールが地面を叩く音。ハンドバッグの金具が揺れる音。そういう音が自分に近づいてきて、そして声が掛けられる瞬間を待っている。

やさしい香りを纏った女が既に自分の前にいることに、男は一向に気づかない。

-No.14-