虚構の男がゴミ捨て場に不時着する。

極力毎日掌編。そうさユアグローもどき。或いは『絵のない絵本』の月。

観覧車

お互いの気持ちを確認するために観覧車に向かう男女がいる。

男はよそよそしい態度で「どうぞ」と女を先にゴンドラに乗せる。スカートの裾を正しながら優雅に腰を下ろす女の姿に見惚れながら、後から乗った男はその正面に慌てて座る。

一息つく間もなく女が「では」と切り出す。「さぁ~いしょーは」というその掛け声に、男は反射的に握った拳を準備する。女の「グー!」という声がゴンドラの中に威勢よく響き、そこで男と女の拳が向かい合う。男には何が何だかわからないまま、二人のジャンケンが始まる。

女は初めからパーを出す決意で、その決意のままにはっきりとパーを出す。男は女と一緒にいる緊張と突然のジャンケンへの混乱のせいで手に力が入らず、ただ握った拳を緩めるように何となくパーを出す。あいこ。

女は少し口元を緩めたかと思うと、すかさず「あぁいこでしょ」と言って、またパーを出す。男はやはち状況が呑み込めず、ただ女につられるような形でパーを出す。また、あいこ。

そして、その後も二人は幾度となくパーを出し合って、あいこが続く。ジャンケンは終わらない。観覧車のてっぺんでも二人はパーを出す。二人とも一度開いた手を決して握ろうとはしなかった。そのままゴンドラは一周回って、パーを出しあう二人の間には勝敗がつかないまま、ジャンケンが終わる。

男はゴンドラを先に降り、毅然とした態度で女に手を差し出す。女もそれに応じ、そこで二人の手が握られる。男にエスコートされ女は優雅にゴンドラを降りる。

お互いの気持ちを確認し終えて観覧車を後にする恋人同士がいる。

-No.8-