虚構の男がゴミ捨て場に不時着する。

極力毎日掌編。そうさユアグローもどき。或いは『絵のない絵本』の月。

 横断歩道の信号が目の前で赤に変わった瞬間、男は急に思い立ってポケットをまさぐり出す。ズボンの左右の・お尻の、ジャケットの左右の・胸の・内の、ワイシャツの胸の……。そうやって全身のポケットを探る男の姿はくねくねとしている。

 しかし探し物は見つからない。男はきょろきょろと辺りを見回す。視界の遠く、路肩にそのボックスを捉えて、男は全力でそちらへ走り出す。

息を切らして、ボックスの扉を開くが、何故か目当てのそれは見つからず、かわりに便箋と切手と万年筆とが置かれている。

 男はきょろきょろと辺りを見回す。視界の遠く、路肩に赤いものを捉えて、男は万年筆を手に取りそれを走らせる。文字は荒れる。手が震えて字が上手に書けない。文字がくねくねとうねる。

 男は諦めて、女に直接会いに行くことにする。走り始めて3日目に女の家に辿り着く。息を切らして玄関の扉を開く。男は女と対面する。

女の頬が目の前で赤く変わった瞬間、男は伝えたかったことを忘れる。

-No.9-