虚構の男がゴミ捨て場に不時着する。

極力毎日掌編。そうさユアグローもどき。或いは『絵のない絵本』の月。

奥歯

 食事をしていると、以前からぐらついていた奥歯が何の抵抗もなく抜ける。

 一緒に食事をしていた母が「抜けた歯は好きな人に投げつけるとよい」というので、私は真っ先に母に向かって抜けた歯を投げつけると、母は驚きながらも笑う。

 歯が抜けた後も気にせずに食事をしていると、ご飯を噛んでいるときに口の中に異物感がある。一緒に飲みこんでしまわないように、その遺物を口から出す。白いクズのようなものがあるが、それが何なのかわからない。

 翌日、学校で給食を食べていると、また口の中に異物感があり、口から出すとやはり白いクズのようなものがある。

 隣の席の女の子に「なにそれ~、きも~い」とからかわれたので、思わずポケットに入っていた昨日の奥歯を思い切り投げつける。

 そして、僕はその女の子に恋をする。

 数日後、奥歯の抜けたところから消しゴムが生えてくる。あの白いクズは消しゴムのカスだったと気づく。

 僕はふと、ラブレターを書こう、と思う。上手に書けなかったところはその消しゴムで消せばいいんじゃないか、と考える。

 その頃の僕は、そういう恋心というものが簡単に消せないことを知らないで、ただ無邪気に奥歯の消しゴムを過信している。

-No.17-