虚構の男がゴミ捨て場に不時着する。

極力毎日掌編。そうさユアグローもどき。或いは『絵のない絵本』の月。

 男が駅前のコインロッカーから人の頭を取り出す。それは男の顔によく似ているが頭だけしかない。男は素早くその頭を黒い鞄に仕舞う。鞄に入れるときに一瞬、男とその頭の目が合う。男が小声で「どうだった?」と問うと、頭は「此処も完璧な居場所足り得ない」と男にだけ聞こえる声で囁く。

 男と頭はアパートの一室に帰る。お茶漬けを食べながら、二人で次の居場所について考えを巡らせる。男がお茶漬けを箸で掻き込みながら首をかしげると、頭はお茶漬けを太めのストローで啜りながら渋い表情をするのだった。

 男は頭を抱えて布団に潜り込もうとするが、抱えられた頭はそれを拒む。「今日は久しぶりに骨壺で眠らせてくれないか」。男は頭を骨壺に納める。

頭は夢を見る。海に投げ込まれる夢。身体を持たない自分は泳ぐことができないで深く暗い水の底に吸い込まれるように落ちていく。呼吸が出来なくて苦しい。すると水底の奥の方に小さな光が見える。その光が次第に拡張してやがで自分の全てを包む。そのときにはもう苦しさはなくなっている。

朝が来ると頭は骨壺の中で白い灰になっている。

 男は「間に合わなかった……」と涙を流す。骨壺をギュッと抱き締めて「ごめん」と漏らす。 

-No.25-