虚構の男がゴミ捨て場に不時着する。

極力毎日掌編。そうさユアグローもどき。或いは『絵のない絵本』の月。

宇宙物理学者

 神様の不在を証明した宇宙物理学者がその功績を讃えられ表彰される。仲間たちに胴上げをされ、わっしょーい、で物理学者の身体は宙を舞う。宇宙物理学者はそのまま重力を忘れてふわふわと浮かび上がる。

 空を越えて雲を抜ける。そのずーっと先に宇宙はなく、ただ緑と海が見える。地球と同じような大地が途切れ目なくどこまでも広がっている。気づけば宇宙物理学者は浮上ではなく、その地球に似た大地に向かって落下している。

 宇宙物理学者は自分の置かれている状況がわからなくなり怖くて目を瞑る。身体に強く空気の流れを感じながら耐えきれずに気絶する。

 目が覚めた宇宙物理学者は胴上げしてくれた仲間たちの腕の中にいる。そしてゆっくりとその身体を地に下ろされる。仲間たちは何事もなかったかのように「おめでとう!」パチパチ「ブラボー!」パチパチ「ひゅー!」パチパチ。宇宙物理学者を褒め称えている。

 その日をもって宇宙物理学者は自身を宇宙物理学者と名乗ることをやめてしまう。

-No.28-