虚構の男がゴミ捨て場に不時着する。

極力毎日掌編。そうさユアグローもどき。或いは『絵のない絵本』の月。

青春

 コンビニに弁当を買いに行く途中で、学生時代に好きだった女の子が空から落ちてくる。男はそれを軽く避けて何事もなかったようにコンビニに向かう。

 コンビニに入り、一直線にお弁当のコーナーに向かう。ふと耳に入るBGMは学生時代に好きだった女の子の歌声である。男はポケットからイヤホンを取り出し耳に装着し、そして自分が好きな音楽を再生する。

 お弁当とペットボトルのお茶を一本持ってレジに向かう。お弁当はあたためますか。とレジの女性が言うのを唇の動きで読み取る。よく見るとレジの女性は学生時代に好きだった女の子である。男は「いいです」と言う。加えて「箸もいりません」と伝える。イヤホンは付けたままである。

支払いを済ませた男は買った商品を手に取りコンビニを出る。

来た道を戻る。先程、学生時代に好きだった女の子が落ちてきたあたりに人だかりができている。人だかりの向こうに救急車が見える。

救急隊員が怪我人を載せた担架を救急車の中に搬送している。その救急隊員をよく見てみるとそれは学生時代に好きだった女の子である。また、その様子を携帯電話で撮影する野次馬の中に学生時代に好きだった女の子がいる。

男はその光景を横目でチラッと確認したあとすぐ前を見、全く立ち止まることなく家路を急ぐ。次の瞬間にすれ違った女性が学生時代に好きだった女の子だと気づきそびれて男の青春は完全に終わる。

 -No.31-