虚構の男がゴミ捨て場に不時着する。

極力毎日掌編。そうさユアグローもどき。或いは『絵のない絵本』の月。

公衆トイレ

 公衆トイレで男が様式の便器に腰掛け、うんこをしている。うーん、うーん。と唸りながら鹿の糞のような細切れなうんこを吐き出す。

 ひょえっ。と言い、突如として男が立ち上がる、お尻に冷たい感触を感じて驚いたために。男が便器を除くと、そこに過剰なほど水が溜まっている。と認識しているうちにその水は便器から溢れだして、トイレの床を濡らしていく。

 男は怖くなってそこから逃げ出したくなるが、とりあえずはしっかりと自分のお尻をトイレットペーパーで拭いてパンツにズボンを履き、そうしてようやっと個室から出る。そのときには既に、男の靴がびちゃびちゃになるほどの水位である。

 男は洗面台の前を通り過ぎる、手を洗わないことに呵責を感じている自分の顔をその鏡に見ながら。しかし、男は無尽蔵に湧く水が怖い。男は迷わず手を洗わないで逃げることを選ぶ。

 外に飛び出した男は走って、その公衆トイレから離れる。数百メートル離れたところで一旦立ち止まり、はぁはぁと肩で息をしながら振り返りトイレの方を見る。入口から滝のように水が溢れだしているのを見て、男はますます怖くなり自分が既に疲れていることも忘れて、また走り出す。

 更に数百メートル離れたときに、男は後方で大きな爆発音を聞く。その音に驚いて男は思わず転ぶ。立ち上がり公衆トイレの方を見ると、公衆トイレそのものが水に押され空に舞い上がっているのが目に入る。とにかく理解を越えるほどの水が溢れ出しているのを男は認める。その水は雲を破り、天にも届きそうなくらいに高く高く昇る。

 やがて、ぽつりぽつりと雨が降り出す。男がそれを確認するために手のひらを空に向けると、そこにべちゃっとした塊が落ちる。先ほど男がしたうんこである。世界の終わりだ。と男は思う。

以降、元々公衆トイレがあった場所を中心として、あたり一帯にトイレの水が雨となり降り続けているのだが、それは今日に至るまで止んでいない。

 -No.30-