虚構の男がゴミ捨て場に不時着する。

極力毎日掌編。そうさユアグローもどき。或いは『絵のない絵本』の月。

 子どもたちがカラスの群れに苺を投げつけている。真昼にあっても真暗なその身に苺の赤が映える。7人と7羽。路地裏、日差しの届かないところで、争いは人知れず起きる。

その現場を撮影しながら子どもにインタビューを試みる男がいる。「嫌いなんだ」とある子ども。――何が?「黒いものが」「忌まわしい」。男はメモを取り、カラスは無抵抗に鳴く。子どもたちは投擲をやめない。

的を外した苺が地面にぶつかり、その果肉をじゅわりと漏らした。アスファルトが赤黒く濡れる。また別の苺が同じように地面に落ちて潰れて落ちて潰れてそれを繰り返し、アスファルトを飾り彩っていく。

気まぐれに太陽の光が射し、もはや形の無い苺を綺麗に輝かせる。無意識に男のカメラがその光景に向いた。男は伝えるべきものを美しさに見出そうとしている。

同日同刻、日当たりの良い病室で、細身の少女は苺を食べている。「甘くておいしい」と呟くその声が新聞紙面を彩ることはない。

-No.3-