虚構の男がゴミ捨て場に不時着する。

極力毎日掌編。そうさユアグローもどき。或いは『絵のない絵本』の月。

氷砂糖

 氷砂糖が雹のように降る。開いた傘をしきりに叩く。「ばばばばばばばばばばばば」と小太鼓のように鳴る。やがて傘の布地を突き破って氷砂糖は男の頭を刺す。甘くはなく、ただただ痛い。頭から血が出る。

さっきまで降っていた雨は止んだが氷砂糖は止まない。男は氷砂糖宿りができる場所を目指して走る。そのうちまた傘が破れる。柄を持つ右手に氷砂糖が当たって、ビクッと男の細い身体が揺れる。不意に手の力が抜けて、男は傘を落とす。

 傘は柄の部分を下にして、足元の水たまりに落ちる。男は水たまりに手を突っ込んで傘を拾う。男の手が濡れる。傘を手元にたぐり寄せると同時に、男は甘い香りに気づく。そこで男は自分の手を舐めてみる。うっすらと甘い。男はここで初めて空から降っているものが氷砂糖だと知る。

 そのとき既に氷砂糖は止んでいる。

-No.4-